神々の

海は六つ目

人は四つ目


〜星を眺める民の伝承〜














「星を眺める民」は南方の小さな島に住む民族

あまりに規模の小さい民族であった為、誰も発見する事は無かった
それ故に当然、彼等の持つ「極めて特殊な能力」も、誰も認知する所では無い


星を眺める民「以外の人間」には、決して明らかにされる事の無かった能力























何だ?この匂いは?

コレは…何と表現しようか…「カジュアル」…な匂い?

会場に充満する不可思議な匂い

どよめく会場






その日まで、特に有名でも無かった無名の民俗学者

民俗学者は階段をゆっくりと登り、壇上に立つ

壇上に立つ自分に、これ程多くの人間の目が向けられた事が、今までにあったであろうか…






うわぁ〜………凄い、凄い凄い、凄い…






彼は壇上に、もう1人男を呼ぶ






もう1人の男の名は「モブ」
モブこそ、今日、今、この瞬間まで、誰にも知られる事の無かった「極めて特殊な能力」を持つ民族


「星を眺める民」の1人


民俗学者は、これまでの常識を根本的に覆してしまう「新しい証明」の為に、テーブルの上に「2種類のラット」を「学会側に」用意させた
Aラット20匹、Bラット20匹の計40匹

AラットとBラットは分けられて、20匹ずつ別々な箱に入れられている筈だった…の、だが…



「うわ〜……」



民俗学者は、用意されたラットを悲しそうに眺める



「意地悪されちゃった意地悪されちゃった…うわ〜…ヒドイ…ヒドイ…うわぁ〜」




星を眺める民


彼等は「優れた遺伝子を認識する事が出来る」

それを「証明」する為に、まだ、名も無き民俗学者は壇上に立ったのだ


彼がその「証明」に必要な実験方法として学会に提示した実験内容は、まず「通常遺伝子を持つラット20匹」と「先天的遺伝子異常を持つラット20匹」を用意し、それぞれを別な箱に入れ、そして、実験開始時に観衆の目の前でそれぞれを一つの箱に入れ、フタをして20分待ち、後入れかやくと液体スープを入れ、十分に混ぜてからお召し上がり下さい…

あ、ちょっと話がそれ…間違えました

十分にそれぞれのラットが混ざった状態の箱の中から「A」と「B」に分けてみせる

という実験内容










目の前の二つの箱








民俗学者は、隣に立つモブに問う

「うわぁ〜…モブ…コレ…オカシイよねぇ?」

『大丈夫だよ。大丈夫。ちゃんと、違うのが20匹、まともなのが20匹…ただし…この時点で、すでにAとBは混ぜられているね…意地悪なやり方だよ…』

「んーー?そうなのぉ?…じゃあ、良いんだけど…」

『私は「あなた程視えている」訳ではありませんが…何となくの「通常」と「異常」レベルならば、絶対に間違える事はありませんよ。ご安心を』

用意されたABラットは、混ぜる前から「すでに混ぜられていた」のだ


しかしこの行為は学会側としては、最高の譲歩であった


学会側からすれば「優れた遺伝子の持ち主を選択出来る」などという事を、どうして証明出来ようか?と考えるのは当たり前


「優れた遺伝子の持ち主を選択出来る」と言われ、その上で「通常遺伝子を持つラット20匹」と「先天的遺伝子異常を持つラット20匹」を「別々」に用意する事を依頼されれば、一つの疑いが生まれる


「フォトグラフィックメモリー」の能力者である危険性


「見た世界」を「見ただけの部分」全て記憶してしまう能力


「通常遺伝子を持つラット20匹」と「先天的遺伝子異常を持つラット20匹」を「別々」に用意した場合、その「別々な箱の中のラットを見られただけで」フォトグラフィックメモリーを持つ人間は、どんなにABを混ぜようが「全てのラットをAとBに分ける事が出来る」

「優れた遺伝子を認識出来る」?

そんな事が可能ならば、遺伝子工学のまさに「革命」だ。有り得ない。


絶対に、無い


しかし、学会側としても、本音で言わせてもらえるならば


「有り得てほしい」
「有ってくれ」


そんな、懇願と呼んで構わない程の強い思いから「フォトグラフィックメモリーの能力者」では実験成功不可能に至らしめる思考を巡らせた、一つの「悲しい策」





そんな、全遺伝子工学研究者の懇願であった実験は
























失敗



























モブが選んだ、通常遺伝子ラット20匹の内2匹のラットが、遺伝子異常ラット

実験と言えば十分に素晴らしい確率ではあるのだが「証明」となると、話は全く違う
「証明」とは「絶対」であり、1%の間違いも許されない
それが「証明」
























落胆


嘲笑



「やはり無理であったか!www」






















多くの観衆のその言葉に、モブは民俗学者に話す

『違う…違う!繁殖によって将来的に発現する遺伝子異常を考慮した場合、この選び方は最適なのです!』

「うわぁ〜…モブ…分かる、分かるよ、ワタシなら分かるんだ…ごめん、ごめんごめん…ごめん…すまない…申し訳ない…」





理解や考察。人間はいつも「過去から未来を想像する」

人間はいつも「過去からしか、学べない」から

つまり人間は「過去を未来と呼ぶ」

どんなに過去を学んでも「未来」は分からないのに

「おかしいよねぇ?」






まだこの時は、誰もが知らぬ民俗学者

誰もが知らぬ、少数民族




















誰もが知らぬ民俗学者は淡々と、モブが分けたラットを一つの箱に戻し、また…フタをした…



会場が沸く



失敗したではないか!
何をしようとしているのだ!
やはり不可能だ!有り得ない!


そんな多く声の中
やはり「その力」が「有り得てほしい」人間も多く存在している



民俗学者は、大きな声で叫ぶ


「んーーーーーーっ!?まだ終わってないよぉーーーーー!!!うわぁーーーーーー!!!」





















その声に、会場が一瞬静まりかえる


















な、なんだ?今の「うわぁーーーーーー!!!」という声は…いや、声…だったのか?


違う…「声」と呼ぶより、「鳴き」と表現した方がしっくり来る…


会場全体が、その「鳴き」に、先に感じた特殊な匂い「カジュアルな匂い」と同じ様な感覚を覚えた

この民俗学者は…いったい…




















民俗学者は、一つ大きな後悔…と呼ぶか、甘さと言うか「分からない者」に「伝える難しさ」を痛感

少し意味は違うが「悪魔の証明」が頭をよぎる

この世に悪魔が存在する事を証明するならば、悪魔を連れて来れば良い
しかし悪魔が存在しないと証明する為には、世界のあらゆる場所を探しに探し、絶対に悪魔は居なかった、と言うしか無いが、それは証明出来ない






初めから「悪魔」が壇上に立てば良かったのだ

いや、もう、立っている








「悪魔」である民俗学者は

モブの才能を読み誤った

「繁殖によって将来的に発現する遺伝子異常を考慮した場合、この選び方は最適」

まさか「そこまで視えて」いたとは…

自分はもっと簡単に、単純に、AとBを分けてほしかっただけだったのだが、モブにとって、それはあまりに簡単で、能力が強いが故に誤った解答を示してしまった
それは自分の至らなさだ









「初めから、ワタシがやれば良かったんだねぇ…うわぁ〜…ごめん、ごめんごめん…申し訳ない…申し訳ない…うわぁ〜…」

『私ならば…私ならば…出来ると思っていました…申し訳ない…申し訳ない…』

「んーーーーーーっ!?モブは、なぁんにも悪くないよぉ〜」









「星を眺める民」は、確かに「優れた遺伝子を認識する事が出来る」が、その能力には、かなり大きな個人差がある

モブがまさか、そこまで「視えて」いたとは思わなかった


「うわぁ〜…ごめん、ごめんごめん…ごめん…」

『やめてください!謝罪など!…しかし…この混乱する会場で…何を…』

「んー?………それは「とても簡単」な事だよぉ」






























自らを「悪魔」とした民俗学者




































彼は「星を眺める民」の歴史上「最高傑作」と呼ばれた能力の持ち主











































「よし!よしよしっ!よしっ!お母さん探しをしてやろう!」

『お、お母さん…?』