ベン.データ

彼には幼い頃から、不思議なモノが視えていた



『全ての事柄には、模様が備わっている』



初めて「それ」を認識したのは、まだ一桁の年齢の頃
友人の誕生日パーティに誘われ、皆と「ジェンガ」をした時



『あ、それはダメだよ!タワーが崩れる!それを抜いたらダメ!』

「こんなに下の棒なのに、コレ抜いて倒れる訳無いじゃんwww」

『えーーーー、そんなに周りがユラユラしてるのに…』

「お前たまに変な事言うよな!バカだな!www」



支点、力点、作用点、そして材質の持つ摩擦係数…などという概念は当然、この時のベン.データ少年は全く知りもしない



「うわ!倒れちまった!!!くそーーー!!!」

『だから言ったのにーー!www』

「何で分かるんだよ!お前ジェンガの天才だな!」

『棒の周りが揺れるでしょ!その揺れがタワーの真ん中の線まで届くと倒れるじゃん!』

「?…もう一回やろーぜ!」

『うん!(^^』




この感覚は、なんなのであろう?


親に話ても分からない


友達も学校の先生も分からない


名前を聞いても分からない、わんわんわわん、わんわんわわん鳴いてばかりの…






失礼、話がそれました








本人とって「それ」は「不思議」ではなく当たり前の認識であったのだが、成長する過程で出会う沢山の人達に話ても、理解出来る人間は居なかった


そしてその能力を、真の意味ではまだ、自分自身でも理解していなかったのだ


風に揺れる木々の葉の周りに「在る」あの模様は何なのだろう…
回転する駒の中心から伸びる線は何なのだろう…
コンロの火の揺らぎ、冷蔵庫から出る冷気、雨上がりの虹…


この世界は「模様」に満ちている…







その、恐ろしい能力を
悪魔の様な能力を


理解し始めたのは「物理学」を本格的に学び出した頃







いくつかの物理方程式を理解した彼の世界は変わり始める


これまで視えていた「模様」の中に「数式」が現れ始めたのだ


鳥の羽ばたき、カエルの跳躍、馬の疾走…

全ての「運動する物体」に存在する「運動方程式」


そして物理学を極めた頃、ついに彼の目に「星の座標」が現れた


幼い頃から視えていた、あの「模様」は、もう視えない…
全ての模様は、輝く「数式」に変わり、僕に「世界の全て」を教えてくれる















『僕には、この世界を支配する方程式が視えるんだ』

























































「んーーー?じゃあ、ワタシを視て、何が視えるのぉ?」


『?えっ?いや…「P」先生を見ても、まぁ、先生の運動による空気の流れくらいは視えますが…「何が」と問われると…??』


「んーーー?それ、おかしいよねぇ?」


『??おかしい…ですか?』


おかしい?…どういった意味のある質問だ?
確かに「1つ」おかしい点は在る…が…そしてそれは、とても珍しい事でもある、が…


ベン.データは「星の座標」を視認する事が出来、その能力の応用研究によって、それまで不可能とされていた「宇宙空間に置ける全ての天体表面の正確な緯度経度の計測と、天体移動によって変化する天体表面の緯度経度の計算方法の確立と応用による、天体の正確な座標特定」で、ノーベル賞を受賞



その功績によって「特待」としてライオンに迎えられたベン.データ



そしてベン.データは、たった今、初めて「P」との邂逅を果たしたのだ



「うわ、じゃあ質問を変えよう、変えよう変えよう…ワタシの緯度経度、座標はぁ?」




『え?…』




「なにぃ〜?」

『………?』

「?んーー?」

『……先生…なぜ僕が「天文学に置ける人間の座標が視える」事を知っているのですか!?』

「うわ、しまった、やっちゃったやっちゃった(^^;」

『せっ!先生は…いったい…!?』


「うわーーーーーーーーーーーー!!!」


Pは大きく鳴くと部屋の隅に縮こまり、もぞもぞと動いて何かしている




狂人、悪魔、怪物…「P」には多くの通り名がある
その中でも、世界中で最も多くの人間が「P」を指す呼称



「カジュアルおじさん」




元々は民俗学者として世界的に有名な学者であった「P」

学会でも「casual ojisan」と言えば「P」の他誰でもない


なぜ「カジュアルおじさん」なのか?は「P」と実際に接してみれば「ある理由から」この世界のほぼ全ての人間には分かる


もちろん、ベン.データも「P」が「カジュアルおじさん」である事には気付いたが、それはただ、Pが有名な学者であったからに過ぎず、彼は「この世界のほぼ全ての人間が分かる理由」から「P」を「カジュアルおじさん」と断定した訳ではない





それこそが、最も重要な鍵





『凄い…本当に凄い…「casual ojisan」…先生…いや「P」先生…』




部屋の隅に縮こまっていたPは、そのまま隅からベンの話に応える

「んーーー?凄い事はないよーーー?なにぃ〜?」




ベンは「P」の洞察力に、恐れを越えた恐怖…畏怖と呼んでも構わない程の念を抱く
自分は「星の座標」を正確に計算する方法の確立によって高い地位を得た、が、その実験や研究の根幹は、実は「自分にしか理解、認識出来ない世界への挑戦」であり、星の座標などは「その研究」の副産物に過ぎなかったのだ
そして「それ」を





産まれて初めて


言い当てられた



「ワタシの緯度経度、座標はぁ?」と言うPの質問が頭から離れない


この人は、いったいどこまで僕の視えている「世界」を理解しているんだ?



この、すみっこにちぢこまっているおじさんは…



『あ、あの〜〜〜…』

「なにぃ〜〜〜?」

『そこに…何かあるのですか?』

「うわっ。あー、ごめんごめん、ごめん。なんか癖でねぇ、部屋のすみっこに行っちゃうんだよ〜、おかしいよねぇ?(^^」

『???』

「ごめんごめん、ごめんねぇ。話を戻そう」



この方は…噂に違わぬ本物の変わり者なんだな…
……あれ?何の話だったっけ……



「星の座標は視える…までは聞いたよ〜。で、ワタシの座標はぁ?」

『ああ、そう、それですそれです。P先生を見て視えるのは…運動方程式だけなんです』

「うわ。ほら、それって…」

『そうなんですよ。おかしいんです…先生が僕の世界のどこまでを理解しておられるのか分からないのですが…しかし、本当に驚きです…まるで「僕と同じ世界を認識している」かの様な…』




「P」は心から嬉しそうな笑みを浮かべ、ベン.データに問う




「ベン君、さっき初めてワタシと顔合わせをしたよねぇ?」

『?……もしかして、どこかでお会いした事が?それならば、大変失礼な…』

「ああ、違う違う!ごめんごめん!うわーーーーー!!!」



一つ鳴き声を上げ、ゼンマイで動くブリキのオモチャの様な独特な動きで部屋をちょこちょこと移動するP



「ワタシとベン君は間違い無く、さっき初めて出会ったよ〜〜。でも何で、ワタシがcasual ojisanと呼ばれる学者だと分かったのぉ?」

『???先生は高名な方であります。科学者…と言うより、普通に誰でも、テレビなどで知っていると思いますが?』

「うわっ。うわ〜…それじゃダメだな…マズイな…マズイマズイ…お面でもしておけば良かったなぁ…」

『???』




お面?なんだ?先生は何を考えている?何がマズイ?
僕の何かを試している…っぽい事は分かるが…
あ、そうか!


『大変申し訳ありませんでした。そうですね。申し訳ありませんでした。先生は決して「casual ojisan」ではありません。「P」先生です。「アルファベット」という特別な称号を与えられた人間は「組織の上層部以外には、決して正体を知られてはならない」という決まりですよね。軽々な発言、申し訳ありませんでした…』


「んーー!?いや、違う違う、違う、それは良いんだよぉ、そこじゃないんだよなぁ…」


『???』




違う!?「アルファベット」は、元来秘密組織であるこの施設でもさらにトップシークレットの存在…その上で、それが理由でもない?何だ?












「うわーーー、まいったな、まいった…うーーーん…どうしたら良いかなぁ?案内係りの…なんだっけ?君の名前?」
















周りの全てがおかしいと感じながら、それでも「ライオン」で努力と研鑽を重ね、やっと賢者の迷宮に認められたばかりの研究者


「無双の証明」によってアルファベットを解散させた「P」と「ベン.データ」との邂逅


それが「彼」の、賢者の迷宮で任された初めての任務だった















『先生、私の名前は、ペーターです』















「そうだ!ペーター君だったね、ごめんごめん、ど忘れしちゃったんだ、うわー、ごめんごめん、ごめんごめん 」

『いえ、全く構いませんよ。そんな小さな事はどうでも良いのです。それよりもP先生が私なぞに「どうすれば良いか?」と問うて頂いた事に喜びを隠しきれません』

「どうすれば良いかねぇ…」

『簡単な事ではありませんか…いや、まぁ、先生は「私から言う事に大きな意味が在る」と認識した上で仰ったのでしょうが…』

にこやかに笑う「P」

2人の会話を一言も聞き逃すモノかと睨む「ベン.データ」

『データ先生…先生は…なぜ最初から「カジュアルな匂いがするから」と答えずに、いちいち回りくどく「高名な」とか「アルファベットは特別な存在で」などと言うのですか?』





うわーーーーーー!!!と大声で鳴き、部屋の隅っこでちょこちょこと動くP





まるで「あっ…」という表情を浮かべるベン.データ






『しまった…そうでしたね…なぜ先生が学会…いや、それこそ世界中で「カジュアルおじさん」と呼ばれるのか、その理由…』


ベン.データのその言葉に、部屋の隅っこから返すP


「ペーター君、本当にありがとうねぇ〜〜、助かっちゃった助かっちゃった…うわ〜…ベン君…やはり君は本物の様だねぇ〜」









Pの言葉を聞き、隣にあったイスに座り込むペーター


本当に…存在するのか…これが「特待」か…「特待」が「特待」である所以…なのか…










Pとペーターの様子を眺めながら、状況の理解へと進むベン.データ









僕は…「この世界のほぼ全ての人間が分かる理由」から、「P」を「カジュアルおじさん」と断定する事は出来なかった…










ペーターは言った…「カジュアルな匂い」と…















何だ?それ?………なんの匂いもしないぞ?……