「何度来ても、ココは本当に広い」

『国をあげての研究施設だ、当然だろう。むしろ、毎回驚く君の思考が理解出来ないよ。このくらいの施設があって当然だ』

「まぁ、それはそーなんだろーけど、俺は小さな小さな島国から来た身分。やはり、スケールの違いには驚く」

『日本、か…一度は行ってみたいよ。世界で最も美しく、偉大な歴史のある国だと私は思うよ、Mr.ウチヒサ』

「君がそー言ってくれると、誇りに思うよ、Mr.トリシュ」





2人はバカデカい研究施設の入り口に立つ






「お二人様。そろそろよろしいでしょうか?」

『あっと、申し訳ない。行きましょう行きましょう』



ペーターに連れられ、2人は大きく口を開けた門をくぐり施設内へと進んで行く



隣同士並び、進んで行く
今日、今、この時、その門をくぐるまでは、ずっとずっと隣同士で、進んで来た


星と星

空と海

空に輝く星空と、海に輝く星空

空と、空を写した海



「世紀の天才」と呼ばれた2人の間には、その瞬間から、星と星が分けた、何かがあったのだと思う






とある国によって秘密裏に創設された研究機関
表向きは、ただの国立研究機関






「ライオン」







人間に動物の組織を移植して、戦闘兵士を創り出そうという研究機関
人間を兵器にしようと目論むその研究は、当然ながら倫理的に許される訳は無く、研究者、及び開発機器担当を集める事が出来なく、ほぼ破綻しかかっていた


そこで目を付けられ、金と研究施設の充実の程にノコノコとやって来たのが「世紀の天才」

ウチヒサ.カツダ
トリシュ.ウーマイ


の2人


遺伝子工学の天才タッグであり「DNAの劣化分裂の阻止」によって、史上最年少でノーベル賞を受賞した研究チームの代表2人である



簡単に言うと「ガンの特効薬を開発」した2人



ライオンの「最期の希望の星」








2人はペーターに連れられ、賢者の迷宮の入り口、プレハブ小屋に入る







「ウチヒサ.カツダ様。トリシュ.ウーマイ様。この度は我々の施設、ライオンへの正式所属、及び契約。誠にありがとうございます」


『ぺーーーターーー、入り口から気になってたんだ。その「様」付けやめてよ』


「ただの見学者であったお二方と、特待である正式契約者様である今のお二人様とでは、それこそ天と地程の差があるのです」


『なーんか嫌だね、そーゆーの。嫌いだ。あの時の俺達と今の俺達は、何も変わりはしない』


ペーターを睨み付けるウチヒサに対し、トリシュ


『ウチヒサ、やめろ。ペーターにも立場がある。私達は変わらなくとも、ライオンでの私達の扱いは変わる』


トリシュの話を聞き、にこやかに笑い応えるペーター


「ご理解頂けるとコレ幸いです。」


『そんなもんかね…』


「では、お二人様にこのカードをお渡しします。」




?何だ、このカード?

真っ白なカード




「受け取って下さい。触れば分かりますよ」




触ればって…


カードを受け取った瞬間、トリシュ、ウチヒサ


『な!!っっ!、!??!??あがっ!、?!、!?』


ほんの一瞬の目眩の様な感覚の後、真っ白だったカードに自分の写真、所属研究室、その他様々な情報が浮かび上がる


『な…んだ?コレ?』





「では、お互いカードを交換してみて下さい」






『は、はい…』


トリシュはウチヒサにカードを渡す。ウチヒサもトリシュに自分のカードを渡す


『あれ?』


にこやかに笑うペーター


「物質には固有振動数がありますが、どうやら生命にも、個々の遺伝子によって固有振動数の様なモノがあるらしいのです。そこを応用して作られたのがこのカードで…」

『待て待て待て、いや、違う違う、違う、ペーター。固有振動数って、質量とばね定数で決まる振動系固有の値であって、物質そのモノに依存する数値では無く…』




「バカにしてます?」

『?』

「話は最後まで聞いて下さい」

『ウチヒサ、とりあえず話をちゃんと聞こう』

「初めから説明します。とりま、物質には固有振動数がありますよね?それを遺伝子に応用すると、不思議な現象が確認されたのです。遺伝子にもまた、固有振動数と呼べる様な、遺伝子が反応する振動数がある事が分かりました。固有振動数の応用から確認されたので固有振動数を引き合いに出しましたが、声紋や風紋で例えた方が良かったかもしれません。申し訳ありませんでした」




なる程…さっきの目眩の様な感覚。アレは「振動」を脳が感知したのか




「まだ「何故そうなるのか?」は明らかになっていないので、詳しい説明は出来ないと言うのが正直な所ですが、声紋認証に次ぐ新しい「個人の証明」になるであろう事は確信しています。しかも、声紋とは別次元の確実な証明。それが、そのカードに使われている個人認証技術「命紋認証」です」


『命紋…』


「それはただの呼称であり、簡単に言うと、個々の遺伝子には、個々に決められた振動数がある、というだけの話です」


『というだけって…ちょっと待てペーター。まだ研究室にも入ってないのに。あまりにも既存の科学を超え過ぎてる』


「だから何度も言っているではないですか…ここ、ライオンには、50年先の科学が在る、と…」


『ウチヒサ。その先は研究室でしよう。今からコレじゃあ、もし、我々の人生が、何者かによって書かれている物語だとしたら、全く先に進まない』


「ご理解ありがとうございます」


にこやかに笑うペーター


『とりま、私がウチヒサから渡されたカードは…真っ白なカードだ』

『俺がトリシュから受け取ったカードも、真っ白なカード…』


にこやかに笑うペーター


「それが、命紋認証カード。カードには持ち主それぞれの命紋が登録されているので、カードに触れた人間の命紋にのみ反応し、他人が触った場合は、ただの真っ白なカードとなります」


『持ち主固有の振動数に反応する…命の波紋…命紋…凄すぎるだろ…』


「取り敢えず今は、そんな感じで理解して頂ければ十分です。さぁ、先に進みましょう」





ウチヒサ、トリシュ、各々のカードを再度交換

真っ白だったカードに情報が浮き上がる


『本当に…凄い…』






ペーターは、小さなプレハブ小屋内の壁に取り付けられた、カメラ付きインターホンの様な物…賢者の迷宮への解錠装置の一部に指を付け、次いでカメラを片目で覗き込む
そしてパスワードらしき言葉を発する


「このシステムについても、簡単に説明しておきましょう」

『大概分かるからそこは良いよ』

ウチヒサの言葉に対し、トリシュ無反応

「あら…ここは気になる所、無し、ですか」


パスワードを声に出す辺り、バレバレじゃねーか!とか言われそうだったが、既に2人には「声に出すパスワード」の意味を理解されてしまっているのか…さすが、だなぁ…






賢者の迷宮への入り口が開く


目の前に広がる真っ暗な世界


この先は「賢者の杖」と呼ばれる光の線が無ければ進む事は出来ず、研究室にたどり着く事は不可能


賢者の杖を起動させる為、ペーターは解錠装置にある0から25まで、計26個のボタンの内、0から9までのボタン、計10個の中から数字を選び押す


目の前の闇の世界に現れる縦の一本の赤い線







「さあ!向かいましょう!」









『待った』


「?え?」


『うん、俺もそこが気になってたんだ』


『解錠装置に指で触れるのは指紋、静脈認証。目を近付けるのは虹彩認証。パスワードをわざわざ声に出すのは、パスワードそのモノよりも、声紋と…おそらくは、さっき知った命紋認証に必要な行動なのだろう。そこまでは納得出来るんですよ』


『そこまで徹底されているのに…』


『そう、そこまでは徹底されて無駄がない、のに』


『その、10から25までのボタンを使わないのは何故なのか?』


『前回も0から9までのボタンだけを使用していました。初見だったのでたまたまかな?と思いましたが、偶然は2度、起こりません』


『0から9まで、と、0から25まで。使える数字が16個違えば、そのセキュリティ性能は数として天文学的な確率で向上する。今回も0から9までしか使わないという行動は明らかにおかしい』











こいつら…キモい!

そこまで見ていたのか!?普通そこまで……いや、この二人に「普通」は決して通用しない

だからこそ、ここにいる…












「さすが…ですね。しかしながら、実は、私にもこのボタンの本当の意味は分からないのです」


『分からない?』


その昔、この研究施設には「アルファベット」と呼ばれる特別な研究者集団が存在し「無双の証明」と呼ばれる大事件により解散。それから「アルファベット」の称号は無くなり、今はただ、目の前の二人もそうである様に「特待」と呼ばれる扱いになった
その「無双の証明」を行なった最後のアルファベットの称号が「P」
ペーターはその過去を知る故、何故「16個のボタンが現在使用不能なのか」を知ってはいたが、ライオンが16個のボタンを使用不能にした「本当の理由」までは知らなかった
そして、そこまでの話を全て説明していては、永遠に研究室に辿り着けない
この二人の探究心は決して止まらないのだから…
故に、ペーターは嘘偽り無く、二人の質問に答える


「はい。本当の意味は分からないのです。なので、答えようがありません…」




ペーターのこの返答が、実に上手かった




『本当の意味…はーーーん…まぁ、それなら仕方ないか…』


カツダ、この時点で理解


ただ「意味は分かりませんが」と返されれば言及の余地もあったのだが「本当の」を頭に付けられてしまっては「真実では無い可能性のある意味は知っている」という事になり、どれだけ質問をしても、その答えが「正しい」という確証は皆無になる
何より「いちいちクソ面倒な質問するな」というペーターの心の声が聞こえる





『ウマイね、さすがペーター』


変な所で空気の読めないトリシュはペーターの返答など聞き流し「16の謎」に挑み出す


『何故…10から25までなのかな…16個…16…暦の数でもないし…16…16…倍にして32…1ヶ月でもない…アルファベットか?アルファベットだとすると…』








トリシュが口にした「アルファベット」という言葉

もちろん、トリシュは何も知らないし、ただの暗号解読の超初期手順の1つ

しかし、ペーターへの効果は絶大

そして、その刹那、トリシュの発した言葉にペーターは戦慄する










『P』











せ、世紀の天才とは、これ程なのか?
その一言、いったいどこまでの思考を巡らせて発した?
いや、ただの暗号解読だ…いやいや「P」は、暗号でも何でもない、ただの「P」…トリシュは何も知らないんだ
ダメだ、これ以上付き合いきれんぞ…







驚愕するペーターに救世主!カツダ!


『トリシュ!もう良いよその話は!』


『!?っ、あ、ああ、ごめんごめん、Pだもんな…余計訳分からんよな…なぁんだろ…16…それに、25のボタンだけ…』


『トーーリシューーー…』


『ごめんごめん、行こう』






トリシュの『余計訳分からん』の言葉に、ペーター、戦慄の後の安堵


「こんな細かい事…ですが、さすがは世紀の天才のお二人様…では!今度こそ向かいましょう!マザーが待っています!」













暗闇の先の研究室











「ライオン」の最期の希望の星

ウチヒサ・カツダ
トリシュ・ウーマイ











「世紀の天才」2人の希望の星

マザー















星と、星















『ああ!マザー!!!!!!
会いたかったよーーー!!!』



興奮するウチヒサに、トリシュは冷静に言う



『マザー…か…誰が作ったのかも分からない、と言うか、教えてもらえない…
しかし、確かに、凄すぎる』



『でしょ!!!マザーは凄すぎる!!!
「作った」とか「造った」では表現出来ないんだよ!
コレは…誰かが「創った」んだよ!!!』



『だからさ、日本語は面倒で、効率が悪い』

























ペーターは研究室の金庫から、広辞苑程もある書物を取り出し、一瞬懐かしそうに眺めた



この書物を取り出したのはいつ振りだったろうか…



厚い厚いその書物は、星達の前に、壁の如く立ちはだかる事になる