「こ、こ、これは…」

『お、おお…お…』

「いや、あり得ない…あり得ない…ここまでの道程で、これだけ高い位置には登って来ていない筈だ…そこまでの傾斜も無かった…筈だ…」

『トリシュの位置感覚も、そう信頼出来ないね、こりゃ(笑』




にこやかに笑って言うペーター

『だから言ったではありませんか、賢者の迷宮は攻略出来ない、と』

「ちょっと落ち込みますね…少しは自信があったので…」





眼前に広がる大海原

絶壁の断崖の上に建てられている研究室

180度ビューくらいの美しい景色


「コレは…凄いですね…」

『施設内では、最も景観の素晴らしい研究室です』

「まるで、高級ホテルのスイートルームだ…」

『太陽光ガンガンで、クーラーないと真冬でも死ぬ程暑くなりますが(笑』





美しい景観から目を離し振り向くトリシュ

「そして…コレが…私達にこの施設の見学を承諾した理由にもなった…何か…」





研究室の半分程もの空間を占める、巨大な実験装置を見上げるトリシュ、ウチヒサ





もはや驚きもしなくなったペーターは、一応2人に問う

『我々に理解出来ない存在があるから、お二方の見学を承諾した、とは一言も口にしてはいない筈なのですが…』


「で?コレはなに?」








ウチヒサのその一言に、やはり驚愕してしまったペーター

まさかの…完無視………











「何なの?これ」


『本来、我々と正式契約しなければ、足を踏み入れる事すら許されない施設。しかも、その施設の最重要機関が、この研究室です』


「なる程。ライオンの抱える資金枯渇問題の元凶はコイツだね?で?コレはなに?」


『私が出来る案内はここまでなのです。コレより先私は、この研究室、この実験装置の仕様、この実験装置による実験結果、過去現在の実験状況、いかなる質問にもお答えし兼ねます』


「なんだそりゃ!まさに「話にならない」じゃん!(笑」



世紀の天才である2人を、ライオンに招き入れたペーター

まず、彼等が本物であるかどうか?
しかし2人は、自身が行ったテストを余裕で通過

さらには、賢者の迷宮の基本的な仕組みを、自身の何気ない会話の中から確信

ペーターは2人の確信を確信して「本物の中の本物」と確信


どんな手を使っても2人をライオンに…いや、この「謎の実験装置」の解明に関わらせたいと心から感じる


謎の実験装置、通称「マザー」


この2人なら、マザーを駆使して「新たなる命」を創造出来るかもしれない…
しかし、まだ部外者であるトリシュとウチヒサを案内するペーターには、案内役としてライオン側からいくつかの制約がある
いくつかの制約の内、最も重い制約は「口にしてはならない」という制約
制約に逆らえば、どんな罰則を受ける事になるのかは分からない…


しかしながら、この「制約」こそが、皮肉にもペーターに最も味方し、2人の天才をこの施設と正式契約させる要となる


もし「制約」が無ければ、2人の質問に対した答えによってペーターは「何かしら」の穴を開けてしまったかもしれない

口は災いの元。天才2人の質問には、いつも罠がある
ペーターには決して攻略出来ない次元の、罠が

「マザーには決定的な欠陥がある」その事実に気付けば、天才2人は、恐らくライオンと契約はしなかったであろう







「ペーターーーーー、それじゃさすがに無理だよ…」

『私も同意だ。こんな、何かも分からない実験装置を見せられて、はい、ここまでです。では、少し無理がある』




もちろん、お二方の心中は察します
なので「これから見て」分かる様な事や、本質に迫る質問以外であれば、まぁ、常識の範囲でお答えします




ペーター、ココは賭け
組織がどこまで自分の発言を許すのか分からない
本来ならば「一切」質問に対する応答は許されない
上記の応答は、ペーターの最後の覚悟




理解しろ上層部…この2人は…絶対に必要な人材だ…



応答が組織の意向に不適切と判断された場合、施設内で使用出来る携帯端末に警告アラートが来る…








「?ペーター?」











大丈夫…鳴らない…大丈夫だ…よし、イケる!




『すみません。お二人の質問に対する応答を考えておりましたので』







やっとだ

やっとだ

やっと報われる

我々の研究が、やっと!

この2人なら「本当の理解」が出来る!











『質問にはお答え出来ません』

「それはもう良いよ。分かった」

『ですが、見せる事は出来る…』

「?」




巨大な実験装置の横

その扉の先の部屋へ、今まで何人「ここまでの会話を聞いた」ライオン上層部から入る事が許されただろうか





そして、その扉の先で、どれだけ絶望しただろうか…





ある者は、部屋内部の「それ」を、何とか持ち出し、世界に公表してノーベル賞を受賞しようと、話を持ちかけて来た

ある者は、懐から黒いカードを出し、いくらで研究結果とその方法を渡してくれるか?と提案して来た

ある者は「それ」を盗み出し、賢者の迷宮から遺体で発見された







ペーターは、賞賛にも名誉にも大金にも興味は無い







常識の範囲の外

50年先の科学が、ここには、在る







『質問には一切お答えしかねます。どうぞ、ご見学を』


理解してくれ

コレが、どういう事なのか

世紀の天才達よ

















「がっ、あ?………………え?」

『ぐっ…………………な、何だ、なんだよ、コレ』



ホルマリン標本室独特の臭い


凄まじい数の標本



その全てが「異常」













「こーーーれはーーーー………」


『なーーーる、ほ、ど………』


「やってくれたねペーター」



ペーターは、にこやかに笑う



「トリシュ、俺達の負けだ。よもやここまで進んでいるとは…」

『うーーーーーん………』

「俺達の頭の中の研究室は、ここに在ったんだね、既に」

『そうなると、だ。ペーターが私達を、ここに呼んだ理由が無い…この話、何かしら、大きな穴がある…』

「穴?何か重大な欠陥でもあるのか?」








大概の…いや、これまでの全ての研究者達は、この大量の標本群を目にし「この標本群が持つ意味」に感動し、驚愕し、愕然として、ただただ、ただの「バカ」になる
そして発想は「利己」に向けて全力で走り出す

それに対して………このバ…天才2人は………

利己など…微塵もない…
それ所か、一瞬で「欠陥」の可能性に気付いた…いや「気付いてくれた」




危なかった

本当に危なかった

「制約」が無ければ、この感動に心動かされ、口に出してしまったかもしれない










「はい」と











気を引き締めるペーター


質問には、一切お答えしかねます。どうぞ、ご見学を






「……絶対に言えないのねーーーー。しかし、コレは…凄い…」

『申し訳ないが、勃起してしまった………』

「まぁ、分かるよ」

『この個体を見てみろ……』

「頭から縦に割れた……魚…かな?」

『アレで、人工的につくったのだろう』

「だね」

『標本のラベルを読んでみろ。射精するぞ』

「プラナリア…」

『この個体、プラナリアの全能性細胞で造られた魚だ。もしかすると、さらにその先…』

「ES細胞で造られた魚………だから、ここから先細胞分裂をして…」


『未知の生命の誕生だ』


「羊の頭に牛の下半身…」

『カラスの頭に豚の体』

「あ、ほら!コレは豚の頭に…体が何かの鳥の個体があるよ!」


『………………』


大声で笑い出すトリシュ

つられて、ウチヒサも笑う








『あ、り、え、な、いwwwwwww』

「腹痛いwwwwww」









ペーターは、にこやかに笑う



「『ペーターーー!!!!!ここはキメラの巣窟か!!!wwwwww』」



ペーターは、にこやかに笑う




『あの、バカデカい実験装置は人工子宮ですね』




ペーターは、にこやかに笑う



「ペーターは答えないよ(笑」

『確定だよ。ここに在る、本来あり得ない生命体の標本群』

「これまでの遺伝子工学歴上、絶対に不可能だった、異種間生命体の創造…」


『標本群は全て、キメラとしての形を保っている。つまり、受精卵から先、細胞分裂に成功した証拠に他ならない』

「でも、それってありえないじゃん?」

『そうだけど、現実にあり得ている。だからさっき言ったろう?あのバカデカい実験装置は、人工子宮なんだよ。ライオンでは異生物同士の受精卵を造る方法が確立されていて、その受精卵をあの実験装置に入れれば細胞分裂を開始するんだ。それ以外あり得ない…』


「ペーターーーーー…この会話も、全て誰かに聞かれているのは分かってる。だからこそ、聞く。そして今、この会話を盗聴している誰かさんにも、聞いておいてほしい。これからする、ペーターへの俺の質問を」







警告アラートは鳴らない








「ペーター…」




『はい』




「お?応えた(笑」



『…』



「おおよそ考えるに、許されない質問に答えた場合、警告アラートでも鳴る仕組みなんだろうね。でも、アラートは鳴らなかった?」



『…』



「あの実験装置で、我々の夢である『キメラ』を、その命を、誕生させる事は出来るのか?」



『全ては見学頂いた現実そのものです。しかし、命を誕生させる事が出来るのか否かは、謎、です』


「………謎………これだけの実験標本があるのに、謎……」



謎……だってさ、トリシュ



「1つ、お聞かせ願いたい」









アラートは鳴らない









『どうぞ』



「羊の頭に牛の下半身…カラスの頭に豚の体…明らかに異種間生命体は誕生しています。命の誕生は明らかです。物理的に考えて『命は誕生している』それでも『謎』と言い張る理由は?」



『謎としか、今は答えられないのです…』



「www」




だ、そうだ…ウチヒサ



そりゃ無いよなーーーー!www



ウチヒサ、君なら、あの実験装置を何と呼ぶかね?



呼称?



だな




命を誕生させるんだから「マザー」かなwww




いいね、「マザー」




でもトリシュ、自分の発言を忘れちゃイカンよ
あの実験装置には「何か大きな穴がある」
欠陥がある、そう示唆してたじゃんwww



だからこそ、じゃないか
「穴」が無きゃ、子は孕めんよ



最後は下ネタかい!!!www






























やはりこの2人には…いや、この2人にも、利己など微塵も存在していない…





爆笑し合う2人と一緒に、ペーターは産まれて初めて、大声で笑った
嬉し涙は、笑い涙のせいにした
























そして一考…



天才だから…まぁ、うん…



思考回路が、開発者と同じなんだろうね…






実験装置の通称が、そのものズバリ「マザー」だと、しばらく言えなかったペーターの心中を察して頂けると有難い








「世紀の天才」である2人が、なぜ、怪しい研究機関「ライオン」などに正式に所属したのか?には、概ね、ここまでの様な話があったからである



ついに「マザー」との出逢いを果たした「世紀の天才」



そんな天才2人が、その装置の恐ろしい程の性能に辿り着くまでは、まだもう少しかかる





やっとこさ、物語は「2人の研究」へと動き出す