「菜前ぇーー!明日は8時に片瀬漁港な!」

『あいよーー!!!』





時は千九百うん十年代、夏

私は当時、小学校三年生





暑い

夏休みに入ったばかりの日曜日

場所は湘南、片瀬漁港



当時は、まだ赤灯台も白灯台も無かったと思う

オンボロと言うか年季入ってるというか、まさに昔の漁港そのものであった片瀬漁港





こんなにお洒落な看板存在すらしなかったし、これから先数十年後、こんな物が作られるなんて想像も出来ない様な漁港



そんな漁港の朝8時



マズメには間に合わないかな?遅めのマズメならギリギリかな?
いや、マズメ何て知らなかった。そんな頃の話



漁港に集まる6人のガキ

我々は釣りにハマって、毎週末釣りを楽しむ日々

しかし、今日は夏休みの日曜日!これからしばらく、週末何て考えないで、毎日だって釣り出来るんだ!!!

まさにまさに!テンションMAX!!!





当時、片瀬漁港は大変良く釣れたので、今とは違ってかなり狭かった堤防は大混雑(土日混雑するのは広くなった今でも変わらないけれど)





8時ともなれば結構人は居て、6人の場所取りとなるとギリギリの時間

しかし常連のおっちゃんばかりなので、まぁ、顔を合わせればそこは釣り人、快く場所を開けてくれます




あの頃は、本当マナーも成ってなかったよなぁ…
良くまぁ、あんな失礼なマネ許してくれていたモノだと思う
なんだか大人に「ありがとうございます!」と言うのが恥ずかしくて、譲ってくれた場所に当たり前の様に釣り座を構え、釣り開始!!!



本当に、楽しかった



堤防からは、今の江ノ島水族館の前の浜辺りまで見渡せ、沢山の人達が夏の海を楽しんでいる

海の家も、なんだか個々に自由に開店していて、今みたいに開店は何月何日から!みたいな決まりも無かったんじゃないかなぁ…分からんですけど




ガキ6人、皆でワイワイ騒ぎながら、テンションMAXで釣りをします










いつもならもっと釣れるのに、今日はあまり釣れないや…








「カッちゃん!今日は釣れないねぇ〜」

『本当だね!でも、これから来るよ!絶対!』

「来るはずだよね!」

『にしたって、お前もそろそろ竿買えよ(笑』



当時私は(今もですが)、ガチ貧乏で竿を買って貰えず、冗談でなく「自作の竹の竿」で釣りをしていました
さすがにそこまでの貧乏は6人の中でも私だけで、皆、子供の使う安物ではあるが竿とリールを持っていた


え?竹の竿でどーやって釣りすんの?ですか?

あなた、上流階級の人間ですね

現代でも、釣り場で小学生を見かける事はよくありますが、100%竿とリールを使っていますね

本当に凄いと思うんですよ、それって

なんだかんだ言って、この国は豊かになったのかなぁ?とか思います

貧しくなったのは、人の心だけかもしれないなぁ…とか思います




竹の竿はですね、山に行って、良い感じの細竹を探して自作!それだけ!
本当は竹にも何種類かあって、一般的にいう竹はモウソウチクで、私の自作竿にはアズマネという竹を使うのですが、そこを詳しく書くと釣りとは話がずれるので…いや、竿の作り方だからずれはしないか…
それが釣りの話とずれるのであれば、私のいつもの記事は、ずれる所か完全に脱線し、東海道線に京浜東北線が走っている様な有様ではないか!と言われかねない…



ですが、やめましょう!
理由は、あまりに長くなり過ぎるから!

自作竹竿の世界はあまりに広いのです…


しかし、それでは当時の私の釣りの情景が伝わりません




簡単に言うと、山に行って良い感じの細竹を探して、良い感じの長さで切る

持ち手の部分の節を削り、持ちやすくします

最も重要なのは竿先

ギリギリ節の上を切り、竿先に節を残します

その節の根元に、友人から貰った、当時最高峰であったライン、ナイロンラインを六重固結び

ユニノット何て存在は誰も知りませんでした

コレで、魚がかかっても節にラインが引っかかり、すっぽ抜けないんですね



本当に、そんな感じで釣りしてました





皆がひょいひょいチョイ投げで楽しむ中、私はせいぜい、竿の届く範囲でやるしか無い

まぁ、それでもちょいちょい小アジだのヒイラギだの小サバだのが上がる

十分楽しめます


遠くで夏を楽しむ大人達を眺めながら「何で男は女に声をかけてるのかなぁ?」とか「あの黄色いお酒、父ちゃんも毎日飲んでるけど、何が美味しいのかなぁ?」とか、将来嫌でも分かるよって事を考えながらする釣りは、もう2度と味わう事の出来ない特別な体験といえましょう






しかし、ちょいちょいしか釣れない…




子供ですから、だんだん飽きて来ます




数人がヒーローごっこを開始

怪人役が釣り場をドタドタと駆け回る





それまで温かく見守ってくれていたおっさんが鬼の形相になり


「こらぁ!クソガキィ!!!しゃべくるのは良いけど釣り場で走り回るのはやめろぉ!!!!」


音は良いとして振動は絶対にダメなんて常識、知りませんからね
怒られたその瞬間はしゅんとして、また釣りをするのですが、そこはさすがガキ、1時間もしない内にまたヒーローごっこは始まります




釣り場の空気がだんだんと、私達のせいでピリピリと張り詰めて来る…




しかし!私達は無敵のクソバカガキ!空気読むなんて言葉は当時存在しません!




ヒーロー見参!悪人はどーーーこだーーーー!!!

うひゃひゃひゃひゃ!

スーパーキーーークッ!!!




さらなるツワモノの友人は、石を拾って釣り場に投げ、水切り大会開始!!!












おっさんの雷!!!!!
ついに落ちる!!!!!!







「クソガキィィイイィイィイィ!!!!!!良い加減にしろやああぁああぁあぁあああぁぁあぁ!!!!」







さすがのクソバカガキ集団も猛省







静かに釣りに戻ります





そこで、私に悲劇が…


竹竿で出来るだけ遠くに投げるには、右手で竿を持ち、左手で餌を持ち、左手からそっと餌を離して右手の竿を軽く持ってしならして投げるのですが…



ひょいっ…


ふわっ…




ぽいっ…










あっ…………………………!






竿ごと投げてしまった!!!!






竿、海にぽちゃん






やっっっちまったああぁああぁ!!!!



菜前の竿がヤベェ!!!!と、友達皆が私の竿を救出しようとしてくれましたが、河口から海への流れが速い!




痛恨の竿、ロスト




いや、まぁ、また作りゃ良いんで、別に良いのですが…























釣りを楽しむ皆






















そう。暇なんですよ

ヒーローごっこも、もう誰もやらないし…





だからといって、1人帰るなんて事は出来ません

なーーーーんも出来ん




友人のダメになった仕掛けを使って、キス釣り仕掛けの仕組みなんかを学んだり、とかく暇潰し
当時、仕掛けも市販の物は買えなかったので、自作する方法をいつも勉強していました




すると、隣でチョイ投げ置き竿していたおっさん2人が


「おーーう、ちょっと休憩すんべ」

『そーだね、ちょっと昼飯でも買いに行こうか』

「ビールももう無いだよ、買い行くべ」


と、仕掛けを上げてコンビニへ

その2人は、かなりの竿…5〜6本位竿を出して釣りをしていました




2人が居なくなると、その2人の向こう側で、当時では珍しいルアーマンが竿を振る姿が…



格好良いなぁ…



ルアーマンも、もう一本の竿でチョイ投げの置き竿をしていた様で、私の視線に気付くとニコリと笑い、その置き竿の仕掛けを上げて、その竿を持ち私に近付いて来ました












今でも、昨日の事のように思い出す












ニコリと微笑むルアーマン

当時ではかなり珍しいサングラスをし、サンバイザーをした、まさに憧れる釣り人!




「さっき、竿投げちゃった子だよね!?」



!?

は、話かけられている!?


これには私の友人達もビックリ!!!



『は、はい!すみませんでした!』(何がすみませんでしたなのかは分からないが、大人に話かけられたら、取り敢えずすみませんでした(笑)


「いやいや、俺こそゴメンねぇ〜。君の竿、俺も頑張って狙ったんだけど引っ掛けられなかった」

『えっ!?あ、いや、その、えーと、ごめんなさい!』

「何で謝るのよ(笑」

『ごめんなさい!すみませんでした!』

「何だよそれ(笑」

(まさか、私の竿が流されていたあの時、このルアーマン様も私の竿を救出しようとしていてくれた事に感動すらしましたが、やはり恥ずかしくてありがとうございますが言えない(笑)







よもや、おっさんに怒られた時とは別な意味で固まる私達集団








「竿、無いの?」

『大丈夫です!また作ります!すみません!』

「だから、何だよそれ(笑」

『ルアーとか超カッケーです!スーパー凄いです!』

「意味分かんね(笑」

『スゴイです!なんか!』

「wwwww」













ここから、この話は加速する

















「君さぁ、釣り、好きなんだよね?」


『(・_・?』


「好き何でしょ?」


『はい!好きです!』


「wwwだよね!」


『はい!』


「何でさっき、ここの人達に怒られたかは分かる?」


『(・_・?うるさくしてたし、走ったから?』


「そうだね。じゃあ、何でそうしたから怒られたか、分かる?」


『(・_・???』


「wwww最高だわ!!気に入ったよ!!!(笑」

















ついに私に、釣りの神様が…ヒーローが降臨するのだ…





















「この竿、あげるよ!リールごと持ってけ!」














一瞬、意味が分からない

友人達もポカーーーーーン(・_・??????











『え?あ、いや、はい?え?(・_・????』



「だ、か、ら!この竿あげる!!!」



『え?いや、そんな事は…え?ええ?いや、ちょ…』



「この竿使えぇい!!!投げまくってやれ!そして、釣り場のルールをちゃんと学んで戻って来い!!!待ってるぜ!」






私に竿を握らせると、ヒーローは素早く釣り具をしまい、足早に去る

















ヒーローが去った後、私の手に残るのは…





















友人達が使うような安物ではない





明らかに高価で、高貴な




「白い竿」




そして、かるい金色を帯びたリール



安物とは違う、どっしりとした重量感













「な、菜前…それ…」

『も、貰っちゃっ…た…』














「す、すげえぇええぇえぇえぇええぇ!!!!」

『あり得ねぇええぇえぇえ!!!!!』

「羨まし過ぎるうぅううぅうう!!!!!!」

『最高過ぎだろおおぉぉおぉぉぉ!!!!!』






あの時の高揚感、興奮、喜びは、どう書いても表現出来るモノではありません



自作竹竿オンリーの私が、明らかに高価な竿とリールを手にしたのですから!!!!!!!






ヒーローは言った!!!!この竿で投げまくれと!!!






友人の使っていない天秤を借り、人生初のチョイ投げ!!!(スピニングだったので、友人に使い方教えてもらいました)









コレが!!!投げ釣りか!!!!!










最高!!!!だぜ!!!!!!!














本当に、天国のような釣り






釣れないけど、楽しかった








コレが「投げる」なんだ!!!!!!















ありがとう



ありがとう




ヒーロー!!!!!!!!

























そして、ついに来る、初の当たり!!!!!



























ぐん!!!

ぐんぐん!!!!!











ぐいーーーーー!!!!!!!














引いてるぞーーーー!!!!!!!







































私の襟!!!!!!!!


































Σ( ̄□ ̄;)Σ( ̄□ ̄;)Σ( ̄□ ̄;)Σ( ̄□ ̄;)????????

























ガッツリ!!!!
服の襟を引かれ、しぼられ!!!
持ち上げられる!!!!!





私!!!!!!!!!!!







































「貴様ああぁあぁあああぁああぁあああぁぁあぁ!!!!!!!!!!!」


















漁港に響く怒号!!!!!!







































「人の竿使って!!!!!何してんだこらぁああぁあぁああぁああぁあああぁあぁあぁああああぁ!!!!!」





























呆気にとられる私を怒鳴りつけるのは、コンビニに昼飯買いに行ってたおっさん!!!!





























もう、お分りですね


ヒーローも、私達クソバカガキ集団に相当な怒りを溜め込んでいたのでしょう



コンビニに買い物に行き、釣り場を離れたおっさんの持つ多くの竿、その中にあった、仕掛けを回収し忘れた竿、それを回収し、私にくれたんですね





おっさんのブチギレは想像に容易いでしょう




これまでのクソバカガキ集団の行いに何とか目をつむってくれていたおっさん
そのガキ集団の内の一人が、勝手に自分の竿を使って釣りをしている…
コレはもう、海に落とされても文句は言えません







「貴様ああぁあぁあああぁああぁあああぁぁあぁ!!!!!!!!!!!こんな事して許されると思うなよおぉおぉおお!!!!」





私としては訳も分かりませんが、とかく「何か、してはいけない事をしてしまったのだ」と認識




「それは俺の竿だ!!!!返せ!!触るな!!!!」




ぶん投げられる私




まさに、チョイ投げですね



当時…と言うか、あの時代は、こーやって、大人の恐ろしさを知ったモノです




「お前は!!!人の物を盗んだんだ!!許さないからな!!!今から警察に行く!!!お前は逮捕されて、2度と学校へも行けないし、お母さんとお父さんにも会えないからなぁああぁ!!!!」



私、ギャン泣き



「てめえらぁあぁあぁあぁ!!!!てめえらもだぞーーー!!!!!!!仲間も同じく警察に捕まるからなぁああぁ!!!!てめえらも!もう学校にも行けないし、お母さんとお父さんに会えないからなぁああぁ!!!!」





皆ギャン泣き地獄絵図




もちろん、こんな事で窃盗罪にはなりません
未成年なので罪にもなりません
私達も、あのヒーローの被害者です




でも、そんな事はまるで知らない




本気で、逮捕されて、母にも父にも会えなくなると思いました







「お前等なぁ!!釣り場では静かにするもんだ!!それを、まるで公園みたいにはしゃぎ回って!!遊んで!!周りにいるのは、釣りをしている大人だ!!友達同士じゃないんだ!!他人が隣にいるんだ!!他人の事を考える、という事を学んでから来い!!社会にはルールがあるんだ!!」





本当に、ありがとうございました、と、今はあのおっさんに言いたい



そして、ヒーローの先読みが凄過ぎると思います



恐らくは、こーなる事を先読みして竿を私に渡したのでしょう



釣り場のヒーローの、ヒーローたるファインプレー!




私達は、おっさんに皆で土下座し、釣り方の前に、まず「釣り場でのルール」を学んで、理解しない限りは片瀬漁港には2度と来ない、と約束し、許して頂きました




クソバカガキ集団から、ヒーローは釣り場を守ったのです!

まさにあの方こそ!本物のヒーロー!!!


































私も大人になった今、有料施設で釣りしてても、沢山いますね。クソバカガキ
信じられます?有料施設ですよ?


あんなに怒ってくれるおっさん、今いません


だからじゃないかなぁ…平気でゴミ捨てて行くし、進入禁止の場所に入って行くし



ちゃんと「釣り」を教えてくれる人が、居なくなってしまった


じゃあお前言えよとなりますが、ハッキリ言って面倒だし、関わりたくもありません
静かにガキから離れます







あの時は、怒られた恐怖と、騙された怒りばかりでしたが、今になって思うと「素晴らしい教育」その物










釣り場に溢れる「白い竿」を見る度、あの日を思い出す

ボロくて下手くそな自作竹竿を振る少年を、たまに探してしまいます

ヒーロー

私は大人に、なれたのかな?




























































































「隣り、良いですか?」



『はい(^ ^)』



「ありがとうございます!お邪魔します(^ ^)」