「命波…落ちる音…重力子………命波…落ちる音…重力子……命波…落ちる音…重力子……」



呪文のように唱え続けながら、あの日からずっと部屋の中をぐるぐるぐるぐると周り続けるベン.データ
一つ、気付いた事がある
Pが部屋の隅に鼻を押し付けたり擦りつけたりするのは、この自分の行動と、恐らくは同じは理由からなのだろう
カバンの中も、机の中も、探したけれど見付からないモノをまだまだ探す気になると、人間はこういう行動をとってしまうモノなのだろう…多分



まさか本当に、海がこの世界の「アカシックレコード」である、などという「不可解」を…「オカルト」を…なぜ証明してしまったのか…






いや、違う、そこはまだ認めてはいないし証明もしてはいない
自分が証明したのは「落ちる音」だけ


重力子が作用する音「命波」と、それを海が受け容れる現象「大いなる母の抱擁」


確かに、とてつもない発見ではあったのだが「全く意味が分からない」







この世界には、科学で証明されていない現象が多く在る
例えば、常温の水と加熱した水を同時に冷凍庫に入れると、加熱された水が先に凍ってしまう現象
例えば、寝ている時や寝そうになった時、体がビクッ!となる現象
双方に科学的名称は存在するものの、科学的になぜそのような現象が起こるのかは証明されてはいない

では、なぜ証明されていないのか?

あまりにも難しく解明が困難で、既知の科学では計り知れない「なにか」が壁のごとく存在しているから、だろうか?

全く違う

そんな事を研究し証明しても「商業的に何の意味も無いから」だ

上記二つの例だと少し分かりにくいかも知れないので、昨今、特に日本人に大変大きな問題として降りかかり、ようやく研究者が「コレは商業的に調べる価値があるかもしれん!」となった事例で説明しよう



よもや知らなかったとは言わせない「ウナギの養殖問題」

ウナギは長年、完全養殖が出来なかった
それはなぜか?を細かく書いてしまうとそれだけで凄い長さのお話になってしまうので、とっても簡単に言うと、まさに「ウナギの完全養殖など成功した所で、商業的に意味が無い」からだったのだ
しかし最近の日本食ブームでウナギは大人気となり、世界的に認められる美食と認識される様になる

そこでようやく研究者達(と言うと語弊があるので、研究者達を雇う企業の偉い人達、とします)が「ウナギの完全養殖の成功は商業的に大きな意味があるのでは!?さあ!研究開始だあぁ!」となり、やっとウナギの完全養殖に真面目に着手できる環境が整い始めた
それは、設備的にも資金的にも

つまり科学的にはどんなに凄そうでも「金にならん事はしない」のは、まぁ、どんな世界でも仕方の無いこの世界の真理の一つ




そしてベン.データも、この問題の大きな壁にぶつかった

確かに「重力子」を間接的にでも証明した事は歴史的発見証明ではあるのだが、事「ライオン」は、軍事機器開発などで非常に大きな利益を上げる事からも当然ながら異常な機密体質の組織であり、ベン.データの重力子の証明も、軍事機器開発への応用研究には利用されまくってはいるが、ベン.データの研究とは全く違う部署で行われている故どんな研究なのかはベン.データ本人ですら知る事は許されない











そして、ベン.データ本人の研究といえば…そう…










今の所「全く金にならない」









落ちる音?ふーーーん、で?

命波?ふーーーん、で?

海が記録媒体?ふーーーん、で?

ベン.データ自身、自分の証明が何の役に立つのか分からない
だから「全く意味が分からない」










しかしそれでも、彼は研究を止める事は出来なかった

だって











あの夜見た「世界」は、輝きに満ち、全てが圧倒的で、言葉で表す事は己の語彙ではとてもではないが不可能であり、そして「言葉で表してはならない」とすら感じさせられてしまう「世界」で在ったのだから













ベン.データの頭の中に、あの夜からいつも、揺らめく言葉











「この世界は、数式という神の言葉で造られている…」











『んーーーーー?なにぃ?突然』

「Σ( ̄□ ̄;)…いえ、その、何となく…(^^;」

まずいまずい、思わず口に出してしまった…

『うわ、新しい法則でも思い付いたのかと思っちゃった、思っちゃった思っちゃった、うわ〜…』









あの夜のあの世界で、眼前に広がる光景と同等の「美」を現したのは、唯一、己が砂浜に書いた「数式」









「すみませんでした(^^;ちょっと散歩でもしてきます…」


ベン.データは研究室から出て、あの日のあの場所へ向かう


あの日の嵐が嘘だったように静まり返る砂浜
静かに繰り返され、打ち寄せる波は今日も命波でキラキラと輝いている



「本当に…美しかったよなぁ…」



しばらく海を眺め、打ち上げられていた流木を手に取り、あの日と同じ場所に書く、あの「数式」


「うん…美しい…やはり「コレ」も、美しい…」


目の前の広大な砂浜
















ベン.データが砂浜に書いた数式は、少しずつ少しずつ、風によって消えて行く

1時間…2時間…ベン.データは空を、海を、数式を眺めていた

















ただただ、美しい、この「世界」を
























風によって、ほとんど消えてしまった「数式」


この世界には、目には見えないが、確かに存在する「力」が在る
例えば重力、例えば磁力、例えば…風力


「力」が働くと、そこには必ず「影響」が出現する
目に見えない力は影響を観測する事で、その存在を「証明」する事が出来る
例えば重力は、リンゴが落ちる現象で目に見える
例えば磁力は、砂鉄の上に磁石を置けば砂鉄の動きで目に見える


























ベン.データの目の前に広がる光景






















風によって、ほとんど消えてしまった「数式」





























では、なぜ「数式は消えたのか?」



風が吹けば髪は揺れ、森の木々は歌をうたい、海は波を起こす


そして砂浜には


「風紋」が出来る



「風紋」それは「目に見える風」


























では、なぜ「数式は消えたのか?」
では、なぜ「数式は消えたのか?」
では、なぜ「数式は消えたのか?」


頭の中で繰り返される「疑問」



























「数式は消えた………僕が書いた数式に「風紋」が上書きされたから…」





「上書きされた…目に見える風…力が存在する限り、そこには影響が存在する…」

























「そうか………なんでこんなに簡単な事に気が付かなかった!!!」




















その昔、ウサインボルトという陸上の選手がいたが、そいつより、今の僕速いんじゃね?と思いながら研究室へ走るベン.データ




肩で息をしながら戻って来たベン.データを見て目を丸くするP



「先生!!!我々が研究すべきは「命波そのもの」では無い!!!いや、そうであったとしても、今はまだその時では無い!!!…の、です!!!」


『んーーーーーー!?なにぃ!?』


「命波が物質に与える「影響」!!!それこそが、今の我々が必要とするモノです!!!」


またもこの時、Pは鳴かなかった


『ハラショー……オーチンハラショー………』
























そしてPは、悲しげに鼻を紅く染める…
その鼻はまるで夕暮れに染まる海の様に、切なく、悲しげで、それで有りながらも、新しい明日が、新しい未来がすぐそこにまで迫り、やがて始まる事を確信しているかの様に…
























だ、か、ら!!!なんで鼻なんだよ!!!このおじさん!!!いや、鼻!!!