台風で荒れる海

2人の男が相対する



『ベン.データ…貴様…』




いや、相対してはいない様だ

Pの目の前で、波をかぶりながら土下座するベン.データ








「本当に、申し訳の無い事をしてしまいましたあぁああぁあ!!!」











海岸とは言え…いや、海岸だからとかじゃなくて、上司…というか、世界的な権威を、しかも自身が心から尊敬する人間を「死んで下さい」などと言い海に突き落とす奴があるだろうか?


ある
割と、ある
特に「科学者」は本当に頭がおかしい連中なので、結構、ある
「デーモン.コア」なんていう恐ろしい物質を使い、台風の海どころか「放射線」の海に挑み、半分自殺みたいな実験してる科学者もいる
(どれだけ狂ってるかは「デーモン.コア」で検索して下さい)





「しかしながら!先生!「海の記録媒体の可能性」に、大きく近付く確信を得ました!」


大きく鳴くP


『よし!よしよし!よし!良い、良いね、良い良い、良いよ!素晴らしい!うわああぁあぁああぁーーー!!』



既に自分が海に突き落とされた事を忘れ、ベン.データの「確信」へと興味を移すP


ほらね、科学者は、本当に狂っているんだ


「先生を突き落として確信しました。海は「命波を吸収」しています。それはまるで…母が子を抱きしめるが如く!」


『ん?ん?んんんーーーーーーーーー!!!??』


「先生が完成させた「音波と電波の二重性の数式」には心から感動しましたが、どこか、穴がある様に感じたのです」

『…ほう』

「確かに、先生の数式は素晴らしい対称性を備えています…しかし「どこか」対称性として「美しくない」のです」

『んーー?「どこか」なのぉ?ハッキリしないねぇ…ならばそれは「完全」だ。「穴がある」などと表現されては黙っていられないねぇ』

「いや、なので…だからこそ「穴」なんですよ」

『ああ、なる程』

「まだ「何かを付け足す事が出来る可能性」それが「穴」であり…」








『それは「音が落ちる」という事…』



ああ、やはりこの人は、既に気付いていたのか…










次いで口にしたのは…やはり二人同時



「『重力子』」











ベン.データは「やはり気付かれていた」と愕然とし膝から崩れ落ち、Pは歓喜によって鼻から崩れ落ちる



ここが研究室であったならば一旦、話は終わったのかもしれないが、ここは「嵐の海岸」

崩れ落ちたベン.データを嵐が叱咤する



「先生はあの時「我々はこれから「ヒッグス粒子」に次ぐ歴史的存在を発見しなければならない」と言いましたよね」



鼻から崩れ落ちたPは、嵐で打ち上げられた白い石の角に、いつの間にか鼻を擦り付けながら大きな鳴き声を上げる
しかし実際は「その白い石」は円形で在り角が無く、鼻で石を撫で回す有り様




「質量を証明した「ヒッグス粒子」そして「2次元」の世界の足元で「見付けてしまった虫」に挑んだ「超弦理論」それらは全て、一般相対性理論の「重力の数式」に挑んだ結果生み出された神への挑戦状」








ベン.データは、ついに「世界を視た」











「先生…これが…」


嵐の砂浜に数式を書きまくるベン.データ


「神への勝利宣言です!!!」



















ベン.データ独自の「重力の数式」が加えられたPの「音波と電波の二重性の数式」は、これまでの輝きを、美しさを、遥かに超えて「完全なる対称性」という究極の美を証明


この世界に「重力」を与える「重力子の証明」


それはまさに「神への勝利宣言」そのモノ


Pであろうとも証明する事が出来なかった「美」


目の前の砂浜に描かれた数式は、背後で鳴り響く雷の光を受ける度にキラキラと輝く


Pが、人生で初めて味わった「負け」


己以外に解読されてしまった「理の暗号」


誰よりも解き続け「勝ち」続けて来たP


勝つ事は「美しい」


暴力的なまでに強く、誰も到達出来ない場所から眺める景色で在り、そしてその景色は「勝者」のみが眺める事の出来る事象


それが「勝利」の「美」


しかし、産まれて初めて「負け」たPは、その数式の美しさに涙を流す


美しく負ける事が出来るのは、才在る者にのみ許される特権だ


















『ハラショー……オーチンハラショー!!!』
















「先生…」

先生が…Pが…鼻が…
鳴かない?


『うん、うんうん、うん…これで良い…』

「先生?」


『ベン.データ…どうするかね?この証明を世界に発表すれば、君は天才の名を欲しいままにし、歴史に名を遺すだろう…』










Pの眼から流れ続ける敗者の涙は、嵐の砂浜ではベン.データの眼を持ってしても観測する事は出来なかった












「………僕は「視えた」から…そこから推測する事で「証明」に至りました…」


『?』


「先生…あなたはいったい「どこまで視えて」いるのですか?」


『…』


「この証明には、まだ「穴」が在ります…それは先生が最も理解していると思いますが…」


『…』



「そして最も気になるのが…「我々の邂逅」そこに同席していた若き研究者「ペーター」に、先生が言った「プレゼント」…恐らくは…先生、あなたは、僕が「ここにまで至る事」は計算済みだったのでは…」










嵐の海岸線
ベン.データによって創造された「真の命波の数式」
それは、物理学から少し外れる「ベン.データ独自の重力の数式」を使っていた為「真の重力子の証明」ではなかった
そこがベン.データの言う「この証明の穴」であり、そして何より、Pの怪物じみた水平思考能力のその先の世界を観ない事には、研究者として「ライオン」を去る事など到底考えられない












「先生…僕は…しつこいですよ。事「真理の追求」の為には…」


『………うわぁ〜……これから先、長いよぉ〜…うん、うんうん、うん…ワタシが撫で回していたその石』


先程まで、鼻で撫で回していた「白い石」を鼻差すP


「?」
何で指差さないで鼻何だよ…



『おそらく、現時点で世界最大の「龍涎香」だよぉ〜……偉大なる君へのプレゼントだ』


「Σ( ̄□ ̄;)」



〜龍涎香〜
1グラム2千円前後というとんでもない値段で取り引きされる香水の原料
砂浜に打ち上げられているクリーム色の臭い石を見付けたら、もしかしたら龍涎香かも!
然るべき機関で調べてもらおう!




ベン.データはPからのプレゼントを受け取り、独自のルートで売り払い、アホみたいな金を手にして「JAPAN」という国で売買されている「よっちゃんイカ」という、イカの加工食品をケース買いし、残りは全て「命波」への研究へと投資


余談ではあるが「龍涎香」は、マッコウクジラが食べたイカの消化出来なかった部分で造られている
イカを売ってイカを買う…実に、この世界は皮肉なモノで在るのだ







話を戻しましょう







ベン.データの実験のおおよそ


「海」は、あらゆる自然現象を利用して「命波」を吸収、記憶する「記録媒体」である、という主張


後日行われた、その実験方法は誠に簡単なモノであった


Pの開発した、現時点で唯一「命波を観測出来る機器」を使用し「海に沈めたモノからは、海が命波を吸収してしまう為、命波が観測出来ない」という結果を「数学的に証明」





それだけ





それだけ





それだけ、なのだが「それだけ」が、どれ程難しい事であったのか


簡単に言えば「幽霊の存在証明」
「悪魔の存在証明」とは似て非なる…非過ぎる証明


「あなたにしか視えない世界」を「絶対に」誰にでも分かるようにしなさい、と言われている状態であったベン.データは、それをついに成功させたのだ


ベン.データには、当たり前の様に「視える」世界


なぜ「母なる海」が「真っ暗」なのか?


足元の海水の一滴に存在する一万の命は、なぜ、波しぶきでしか「命波」を輝かせる事が出来ないのか?


それは全て


「母なる海」が「命波を吸収していたから」だった


遠くで起こる波が光るのも、足元の波しぶきが光るのも、それは波のしぶきによって「海から出た」存在が「命波」を発するからであり、海に「入ってしまった」存在は、いかなる命波も放出する事は出来ない


「母なる海」に入った存在からは、決して「命波」を観測する事は出来ない



















『ベン.データ…さあ、ワタシの発見した「命波」に次ぐ発見だよぉ…』




「…」





『この現象、何と命名するかね?』





「………「大いなる母の抱擁」…」





『ベン.データ…君はインスタグラムをやってるぅ?』

「いえ、全く…」



































『うわぁ〜…じゃあ、口頭で…「いいね!」』