「3日後のデート」

それは、とてもではないが「無理」な筈であった、が

今、ベン.データは予定の時刻より2時間早く目覚め、今や遅しと準備をしている








やられた…本当に…凄い…
先生は、この景色が、3日前に既に「視えていた」のだろうな…ただの鼻のクセに…








3日前のPの言葉
『しかしデートには、綿密な計画が必要だねぇ…』
『いや、だから「空気読め」って』
『そうだなぁ…うん、うんうん、うん…3日後が良い…』








この「世界」を、既に「視ていた」のだろうな…「空気読め」って、流体力学の事だったのかよ……
綿密な計画…それは「自然」そのモノの「現象発生」を計算する事…


確かに「3日後」の今日程、僕をデートに誘うに相応しい頃合いは、そうそうありませんわねぇ…













「参りました、先生………コレは………凄いや………」


部屋で独り、ポツリとこぼすベン.データ










デート当日

機密研究機関「ライオン」には、猛烈な台風が訪れていた
5日前から天気予報が注意喚起していた通りの、そのままに

































『さぁて…ベン.データ…何が「視える」かなぁ?』



ベン.データはエコロケーションの能力を有してはいない
しかし「この状態」であれば…

嵐による、凄まじい風の音の波の回折
そして、ベン.データのみが有する運動方程式を視る事の出来る「眼」

「この状態」であれば、Pが感覚として理解しながらも、物理的運動を確信出来ない「何かしら」を、ベン.データは根底から理解出来るのではないか?



結論から言えば、Pのその狙いは完全には達成出来なかったものの、大きな成果を上げる





「コレは…本当に…嵐…台風なのですか?…いや、台風なのでしょうね…しかし僕には…」


ニヤリと笑うP


『君にとって、この自然現象は、いったい「何だ」?』










「黄金螺旋…」



うわああぁああぁあぁあぁああぁぁぁあぁーーーー!!!












Pの大きな鳴き声は嵐の風音にかき消されてしまったが、その鳴き声の命波は、まるで金色の龍の如く美しい姿形に変化し、滑らかに嵐の中心に向かって進んで行く



『黄金螺旋…普通、物理学者はその単語を使いはしない。通常ならば「対数螺旋」もしくは「黄金比」と表現するし、そうすべきだ…おかしいよねぇ?…ベン.データ』



「いえ、これは「黄金螺旋」です」


またもや大きな鳴き声を上げ、さらには、砂浜に鼻を擦り付けるP


よもや、Pの鼻がどうなろうが、そんな事はどうでも良い事に思える
この「黄金螺旋」を、眼にしてしまったら…













〜「黄金螺旋」〜

通常は「対数螺旋」と表現され「黄金螺旋」と呼ばれるのは、一部の絵画などの「人工物」に多く見られる、1対1.6の比率の渦巻きの「黄金比」の事
多くの小説やメディアでは「神の比率」などと呼ばれる事もあり「自然界」に多く見られる「比率」とされるが、細かく計算すると、自然界よりも人工物に多く見られる比率の様な気がして仕方がない謎の比率
有名所では「オウムガイの殻の構造」ですが、これも細かく計算すると少しズレる…
しかし、そこは「科学」と「ロマン」の、どっちを優先する?という話であり、私は「ロマン」を優先する方の人間なので、これより先、2人の天才は「ロマンチスト」になって頂く他ありません
















『まさか君の口から「黄金螺旋」とはねぇ…』

「科学の視点から描かれていない多くの小説や、ニーズに対するメディアの表現によって「黄金螺旋」は正しく理解されていません…だって…」

『「螺旋」と「比率」は、全く違う概念だからねぇ…』




ちょこまかとツッコミ入れんじゃねぇ!鼻!

「螺旋」は本来、3次元空間で起こる現象であり、2次元で説明出来る「比率」とは全く違う概念
「黄金比」は「黄金比率」であり「黄金螺旋」は「螺旋」





『そこまで理解している君の口から「黄金螺旋」が出て来た辺り…本当に…素晴らしい!』


完全に心読んでるよねコレ
完全におかしいよねコレ


「例えば、指紋。人それぞれ違う「指紋」の湾曲は「黄金比」です。例えば「ヒマワリの種の羅列」ヒマワリの種は黄金比で並んでいます。例えば「海流の渦」海流の渦は黄金比で回っています。例えば「銀河」銀河の星々は黄金比で銀河を中心に周っています…そして…」


目の前の「大きな不可解」







『そして?』


「そして……「台風」は……」


『そう、そうなんだよ…「台風」は…?』


「黄金螺旋で、流れています…」





う、うぅ、うわあぁああぁあぁぁーーーーー!!!





…………砂浜に隅っこは無いから、放っておくか………









あれ?


あ、戻って来た









『うわぁ〜、ごめん、ごめんごめん、ごめん、病気だねぇ、本当に…』


本当…なんなんだろう…この鼻…


『やはり「そうだった」んだねぇ…』


「先生………先生は…いったい何故「視えない」のに「分かる」のですか?」






神々の
海は六つ目
人は四つ目

風は遺し
海は知る

神の民は海を渡り
知の世界を感じるばかり

空知る民は海を超え
足元に広がる空へ船を出す

上は四つ目
下は五つ目
神は六つ目






『伝承は、理由が在るから伝えられる』

「なるほど…」

『確立されてはいないが、HIVに効果のある薬の成分も、アマゾンの原住民の伝承に在った植物の成分から精製が始まったのは有名な話だ』

「風は遺し、海は知る…ですか…」

『そこから「この現象」に辿り着くのは、それ程高い水平思考能力を試される訳でもないよぉ』









ベン.データは、大きなため息を一つ


そして、目の前に広がる壮大な光景を眺めながら、大きなため息を、また一つ


Pは、全てを「視る事なく」イメージとして「理解してしまった」のだろう


周囲に存在するあらゆる命波を、中心へと巻き込んで行く台風


それは「台風」と表現するよりも、何層にも重なる、とてつもなく厚く、巨大な「記録媒体」の様だ


一つではまるで意味を持たない、小さな小さな命波が集められ、全てを表現している











ああ…そうか…


命波は、この世界の「言語」なんだ…

一つの文字は、それだけでは意味を成さない




ああ…そうか…

命波は、この世界の「音楽」なんだ…

一つの音は、それだけでは意味を成さない




一つの文字だけでは「言語」にならない
一つの音だけでは「音楽」にならない




全ては「ココで」集約する




風は遺し、海は知る…


















ベン君は「アカシックレコード」は知ってるぅ?


「!?」


いつか聞いたような質問




















「ア、アカシックレコードですか!?」

『んーーーーー!?なにぃ!?ワタシ何も言ってないよぉ?』



気のせいか?いや、確かに聞こえた…と思う…




『アカシックレコード…ずいぶん前に、ベン君と話たねぇ、それ…』


「今、先生のその話が突然聞こえたような気がし…」


うわあぁああぁあぁぁーーーーー!!!


Pは鳴きながら、砂浜に転がっている石の角に鼻を押し付け、嬉しそうに笑う


「視える者」と「視えない者」が「同じ世界」を「視る」














それは「真っ暗な海」


















この地球上、全ての命の「母」である海

その海が、なぜ「真っ暗」なのか


なぜ、命波は「落ちる」のか

なぜ、真っ暗な海の「波は光る」のか


一つの文字だけでは「言語」にならない
一つの音だけでは「音楽」にならない


全ては「ココで」集約する


風は遺し、海は知る…


「神の民の言葉…」


足元に当たる海のシブキは、やはり美しく煌めく


いちいち自分の発する言葉に反応して大声で鳴くP


その鳴き声は「黄金螺旋」へと吸い込まれて行く


ベン.データは「一つの確信」を得た


波もかなり高くなって来た………

しかし…いや、だからこそ、今…

























やらなければならない































「先生…」


『んーーーーーーーーっ!?』


「死んで下さい」


『んーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!???』